山口地方裁判所 昭和25年(ヨ)22号 判決
申請人 宇部窒素労働組合
右代表者 組合長
被申請人 宇部興産株式会社
一、主 文
申請人の本件申請を却下する。
訴訟費用は申請人の負担とする。
二、事 実
申請代理人等は被申請会社は申請人組合代表者藤本秀人に対し金二千五百十六万四千七百四十四円を支払え、被申請会社が右金員を支払わないときは強制執行をすることができる。訴訟費用は被申請会社の負担とするとの仮処分の判決を求めその申請の理由として、被申請会社は肩書地に本店を有し肥料、硫酸、硝酸、セメントその他の化学工業品ならびに副産物の製造、加工および販売等を営む株式会社であり、申請人組合は被申請会社の宇部窒素工場の従業員によつて組織された労働組合であつて法人格を有しその組合員は別紙明細表の組合員氏名欄に記載された通りであるが、昭和二十四年九月十三日に開かれた運営協議会の席上申請人組合は一人当り平均三千円の賃金引上を要求した。この要求は第一に昭和二十三年七月の賃金改訂当時から約一年を経過しその実質賃金は約三〇パーセント低下していることと、第二に被申請会社の経理内容に立脚し一般業界水準を考慮した上でのことであつて妥当な要求であつたにもかかわらず被申請会社は何等経理上の具体的説明もなさずただ「出せない」との一点張りでこれに応じなかつたため交渉はゆきづまり、申請人組合は同年十月七日山口地方労働委員会に調停申請をなしたところ同委員会は一人当り平均一千円の賃金引上を相当と認めて同年十二月十日「翌二十五年三月末日迄に一人平均七千円(税込)を支給すること」との調停案を被申請会社および申請人組合の双方に示したが双方ともこれを受諾せず不調に終つた。一方当事者間の旧労働協約は昭和二十一年五月二十二日締結され昭和二十三年八月三十日再締結をなし爾後昭和二十五年二月二十八日迄その効力を延長持続する運びとなつたが、その間協約改訂につき昭和二十三年二月組合案を提示し同年五月会社案が提示され、その後昭和二十四年五月より具体的交渉に入り同年七月十一日に至り一応基本的条項につき双方意見の一致を見た。越えて昭和二十五年一月協約締結の交渉は再開されたが同年二月十三日に至り被申請会社から突然昭和二十四年七月十一日に前述の通り決定を見た基本的条項につき三項目の修正案が提示されこれに対し申請人組合はこれが撤回を要求し昭和二十五年二月末日迄に新協約の締結が不可能なときは旧協約を三ケ月延長したいと申入れたがこれに対し被申請会社は右三ケ月間は争議行為を行わないとの条件を附するならばこれに応ずる旨回答してきた。これは被申請会社に於ては何等の代償を支払わず申請人組合に対してのみ権利の抛棄を強要する不当な回答であるので申請人組合はこれを拒否せざるを得ずよつて同年二月二十八日の経過と共に右旧労働協約ならびにその附帯協約は失効して無協約状態に立ち至つた。ここにおいて申請人組合は前記賃金引上および新協約締結を要求し、被申請会社と交渉を重ねたが、会社は依然紛争の平和的解決について何等誠意を示すところなく、ただ申請人組合の右要求の撤回を繰返すのみであつたので今や平常の状態における交渉では解決困難と判断されるに至つた。そこで申請人組合は已むを得ず同年三月十日ストライキ宣言を発するに至つたが宣言後も数次に亘り団体交渉を行つたものの被申請会社は依然強硬な態度を堅持して譲らなかつたので、誠意ある交渉を促進するため、申請人組合は同月二十二日十六時より四十八時間の警告ストライキを行つた。而して申請人組合は同月二十四日右のストライキ終了前の団体交渉の際被申請会社に対し就労の申出をなし更に同月二十七日書面をもつてもその申出をなしたにもかかわらず、被申請会社は就労の申出を拒絶し且申請人組合の前記要求の撤回を求め同月二十四、二十六日の両日各二日間の臨時休業を行い更に同月二十八日一日間の臨時休業を行つたが、これら休業はすべて通常の場合の電休、材料不足その他の事情による会社経営上の都合によるものではなく、明かに申請人組合の就労を拒否しその要求の撤回と組合の弱体化とを計る目的のためなされたものであつたが、申請人組合は双方の激突を忍ぶべからざることを考え、平和的解決の最後案とし被申請会社に対し就労の申入をすると共に団体交渉による解決不可能な場合は中央労働委員会の仲裁により解決すべきことを申入れたところ被申請会社はこれを拒絶し、俄然攻撃に転じて当時申請人組合が尖鋭化した長期間のストライキないしは反覆スト等の争議行為に突入することが予見されるような客観的事情は何等存在しなかつたにもかかわらず申請人組合幹部を失脚せしめ組合の無力化、御用化を策して不法にも同月二十九日より作業所閉鎖と称して組合員の労働の提供を拒絶し四月八日にいたる十一日間を経過したが、この間被申請会社は申請人組合員との労働契約が有効に存続し且つ前記の如く労働の提供をした申請人組合員を閉め出しておきながら試傭者又は臨時募集人夫等を就業させ工場施設の保全の限度を越えいわゆる操業継続を企図したものであつて作業所閉鎖と称しつつも現実に閉鎖(生産停止)は行われなかつた。即ち前記臨時休業とその実質において何等の相違なくただ一を臨時休業他を作業所閉鎖と自称したに過ぎない。その後関係当局の勧告もあつて翌四月八日にいたり当事者間に賃金引上および労働協約については三ケ月の冷却期間において解決すること、臨時休業期間(五日間)の賃金はその全額を支払うこと等の和協が成立し双方平常に服したが右十一日間の賃金については解決を留保した。即ち会社側は作業所閉鎖中の十一日間の賃金についてはその支払義務を否認し弁済期である同年四月二十七日を経過しても支払をしない。然しながらすでに述べた如く被申請会社において受領遅滞の責は免れないのであるから被申請会社は右期間の賃金全額の支払義務を負うものである。右の主張が理由がないとしても被申請会社と申請人組合員との間の賃金契約は現行賃金支給規程によりいわゆる月給制を本則とするものであるから被申請会社は申請人組合員に対し本来右制度にもとづき月間賃金の全額を支給すべきものである。なお申請人組合員の受くべき右十一日間の個人別の具体的金額は別紙明細表(金額欄が記載されている者のみ)の通りである。而して前述の通り右作業所閉鎖はその実質において臨時休業と何等異るところがないのであるから右期間中の賃金は実質上休業手当に該るものであり、被申請会社は労働基準法第二十六条の規定に違反してこれを支払わないものであるから同法第百十四条の規定にもとづき申請人組合員は別紙明細表の未払金と同一額の附加金請求権をあわせ取得したが、その総合計額は二千五百十六万四千七百四十四円となる。なお申請人組合の当事者適格及び本件仮処分申請の必要性について一言すれば、そもそも労働組合は労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体であるからもし使用者が労働者に支払うべき賃金を任意に履行しないような場合においてはその労働者が自ら訴訟を遂行しうるばかりでなく、その労働者の属する組合もまた団体行為により、即ち組合としての資格で使用者に対して組合員の賃金の支払を請求することができるのである。したがつて本件申請においても申請人組合は組合員のために自ら訴訟を実施する権能を有するものである。また本件仮処分の必要性については申請人組合員は勤労者であつて賃金によつて自己及び家族の生計を維持しているものであり、本案判決確定まで十一日分の賃金を入手できないときは組合員及びその家族の生存を危険に陥らしめるからその重大な損害を避けるため仮の地位を定める仮処分によりこれを保全する必要がある。そこで冐頭に述べた通りの仮処分を求める次第であると述べ右申請人組合の主張に反する被申請人の主張事実をすべて否認した。(疎明省略)
被申請代理人等は主文と同旨の判決を求め先づ、訴訟上の抗弁として本件仮処分申請は本案判決の確定前に之と同一の結果を得ようとするものであるからかかる申請人に十全の満足を与える仮処分は仮処分本来の目的を逸脱して不適法であり、また申請人の請求は将来に亘つて継続する法律関係にもとづくものではない。たとえば不当解雇等によつて将来の賃金債権が脅かされているような場合ではなく本件の問題とされているのは昭和二十五年四月分の賃金中僅かに十一日間における賃金ならびに労働基準法にもとづく附加金であつて過去の法律関係にもとづくものであるから仮差押によるは格別仮処分申請は違法であると述べ事実上の答弁として申請人の主張事実中被申請会社がその肩書地に本店を有し申請人主張の如き種目の営業をなす株式会社であること、申請人組合はその主張する如き氏名の者により組織された労働組合であること、昭和二十四年九月十三日主張の如き賃金引上の要求がなされたこと、同年十月山口地方労働委員会に申請人組合より調停申請をなしたが調停案が当事者双方により受諾されなかつたこと、また、翌二十五年二月二十八日の経過にともない当事者間の基本並びに附帯協約が失効し無協約状態に立ち至つたこと、同年三月十日申請人組合はストライキ宣言を発し更に同月二十二日より四十八時間警告ストライキに突入したこと、更に会社が同月二十四日、二十六日の両日、各二日間の臨時休業を行つたこと、中央労働委員会の仲裁に附する申出を応諾しなかつたこと、同月二十九日より翌月八日にいたる十一日間被申請会社において作業所閉鎖をなしその間多少の人員を臨時傭入れたこと、以上の事実は認めるがその余はすべて否認する。申請人組合はその賃金引上は妥当な要求である旨主張するが、当時はいわゆるドツジライン、シヤープ勧告等経済安定政策の実施により各種産業統制は撤廃され被申請会社の営業種目中主要な部門をなす硫安の価格の価下げ、自由競走の激化等企業前途の見通し困難な時期に当つていて而も申請人組合員の当時の給与は全国的にみて最高水準にあつたのであるから右賃上の要求はまことに不当な要求でありまた無協約状態に立ち至つた事情も、申請人組合が協約中に強烈な経営参加の主張、ならびにその理念にもとづく人事権介入、経理状況の説明、経営方針、生産計画の説明又は呈示等を盛り込まんことを要求したがため被申請会社は自己の経営権を擁護するためその要求を拒否せざるを得なかつたがためであつてこれに関連して特記さるべきことは右協約の失効とともにこれが附属協定として締結されていた、争議行為中の工場施設保全に関する協定が同時に失効した事実である。すなわち被申請会社は工場保全の問題は単に会社の利益であるのみならず、全従業員の利益でもありひいては社会の利益でもあるので、被申請会社は以前よりこれが協定を協約の失効と切離し独立協定として締結せんことを申入れたのであるが、申請人組合は即座にこれを拒否したのである。この保全協定拒否の経過こそ今次争議を一層紛糾せしめた所以であり、その間の事情は以下順次述べることとする。さて、また昭和二十五年三月十日のストライキ宣言にはあらゆる手段を尽して決然と闘う旨を述べてあつて前記の如き不当な要求を強硬に実現せんとする意思が覗われたのであるが、同月二十八日一日間の臨時休業を実施するに至つたのもその前日即ち二十七日の申請人組合の回答書中「平和的解決の余地は充分に存すると思料する」旨の一項があつたがためであつて被申請会社はこれに一縷の望を嘱し二十八日団体交渉を開き妥結の方途を発見すべく努力したけれども遂に解決の曙光を見出すことができなかつた。ところが翌二十九日に至り申請人組合より更に一般大衆と共に断々乎として闘う旨明示し来たり、且つ中央労働委員会の仲裁にかけることに同意を求めてきたのである。同日より行われた作業所閉鎖の経緯も次の如くである。即ち申請人組合は被申請会社が本件宇部窒素工場の化学工場たる特殊事情のため一時的操業停止によつても甚大なる損害を生ずる虞があり従つてこれを避けるに汲々たる頗る弱い立場にあることを夙に察知すると共に反面巨額な斗争資金と強大な統制力とを誇示し常に挑戦的態度を堅持し当時として極めて不当な賃金引上および強度の経営参加の要求を強引に貫徹せんとしこれを拒否すれば更に断続的又は長期に亘るストライキを決行することが必至であつたことは客観的に肯定し得る情勢にあつた。よつて被申請会社は自己に許された殆ど唯一の争議手段として作業所閉鎖の方法を採つた次第であり、且つまた右作業所閉鎖中における操業は決して操業に名を借り申請人組合の団結を阻害する等の不当の目的をもつてなされたものでなく、更に既に述べた化学工場の特殊性からもし完全に操業が停止されるならば工場としての機能は殆んど失われ将来における使用に堪え得ないこととなるのみでなく、事情によつては爆発等のため不慮の災害を惹起する惧もあり申請人組合において前述の通り工場の保全運転に協力することすら拒否したため被申請会社の実質的な利益を自衛するため已むを得ず応急措置として保全運転を限度として多少の人員を臨時傭入れたが傭入れに際しても被用者に対し短期間を定めかつ争議解決の暁は即時解雇する旨を明示しているし現に本件争議解決と同時にこれを全員解雇している。
以上要するに被申請会社の行つた作業所閉鎖はその目的においても手段においても違法の謂れなく、したがつて右作業所閉鎖中の賃金支払義務なきは勿論、申請人組合の主張する如き附加金の支払義務のないことは自明の理である。更に附言すべきは申請人組合の本件申請の当事者適格の問題である。本件申請における被保全権利は申請人組合の組合員が被申請会社に対し具体的に取得したと主張する賃金債権であるが、元来賃金債権は個々の労働者が使用者との労働契約にもとづいて取得する固有の権利であるから組合はかかる賃金請求権の主体たり得ないと共に本件申請人組合の如く組合規約等により特別の授権のない場合はその管理処分権を有しない。したがつて申請人組合は本件申請につき当事者適格を有せざるものである。以上いづれの点からするも申請人の本件申請は失当であると述べた。(疎明省略)
三、理 由
先づ被申請会社の訴訟上の抗弁につき判断するに、被申請会社は仮処分は将来の強制執行の保全を目的とするものであるから本件仮処分申請の如く本案判決確定前に申請人組合として勝訴を得たと同一の状態の実現を求めるのは仮処分本来の目的を逸脱するものであつて許さるべきものでなく、且つ将来に亘つて継続した法律関係にもとづくものでないから違法である旨主張するが、民事訴訟法第七百六十条に依る仮の地位を定める仮処分は本案の終局判決あるまで暫定的に申請人の主張する通りの法律上の地位を認めなければ継続する権利関係につき著しい損害を生じ又は急迫な強暴を避け得ない事情の存する場合即ち争ある権利関係につき当該権利の実現がその時機を失する危険ある場合にも許されるものであるからその必要の限度に於てはいわゆる断行的仮処分もまた許さるべきであつて一概に之を違法と解すべきでないから被申請会社の右の抗弁は理由がない。そこで進んで申請の実体につき判断をすすめることとする。
第一、当事者間の今次紛争の経過の概要は、昭和二十四年九月十三日に開かれた運営協議会の席上申請人組合から一人当り平均三千円の賃金引上の要求が提示されたこと、翌二十五年二月二十八日の経過にともない当事者間における基本ならびに附帯協約が失効し無協約状態に立ち至つたこと、申請人組合が右賃金引上および協約締結を求めて同年三月二十二日十六時より四十八時間の警告ストライキを実施したこと、これに対し被申請会社においては同月二十四日、二十六日の再度各二日間、二十八日の一日間計五日間の臨時休業を実施したがなお妥結するに至らなかつたため翌二十九日より四月八日にいたる十一日間作業所閉鎖を断行したこと、以上は当事者に争いのない事実である。
第二、そこで本件申請において当事者間の主要な争点と認められる右作業所閉鎖の当否について判断するに、その成立に争いのない疏甲第十七号、同第十九号、同第二十号ないし第二十三号、疏乙第四号の八、九、十、同第五号の一、四、六、同第六号の一の一ないし九、同第七号の一ないし六、証人小川忠光の証言及び検証の結果を綜合すれば、なる程申請人組合が昭和二十五年三月二十六日書面を以て被申請会社に対し就労の申入れをなした事実は認められるが、その後の団体交渉の経過からみて、被申請会社において申請人組合は到底前記の要求を撤回するような意図はなく、更に強硬に要求の貫徹を求めた事実、また右就労の申入れや、平和的解決を希望する旨の申入れもその真意奈辺にあるやを疑われても止むを得ない事情にあつた事実、更に被申請会社の最も憂慮した争議中の工場施設の保全運転をすら申請人組合が拒否する態度に出たため被申請会社に於てはあるいは今後も断続もしくは長期ストライキを強行し争議は依然継続するのではなかろうかと判断するにいたつた事実、これに対抗するため被申請会社がその許された唯一の争議行為たる作業所閉鎖を申請人組合の右要求を撤回せしめる目的で以て従つて前記五日間の臨時休業とその本質を全然異にする争議手段としての本件作業所閉鎖を断行するの止むなきにいたつた事実が認められる。そもそも作業所閉鎖とは使用者が労働者を一時集団的に生産手段の事実上の支配から排除し生産手段を完全に自己の事実上の支配下に置く行為のみをいうのであつてそれ以上のことを意味しない。したがつて本件における如く作業所閉鎖中臨時雇等を一時募集して操業を継続するも争議手段として認められた作業所閉鎖そのものの当否に何等かかわりのない事柄であつてその当否は閉鎖当初如何なる目的でなされたかを考察すれば足りる。労働者の正当な組合活動を阻害する目的たとえば労働組合の結成又は団体交渉回避その他違法な目的でなされる作業所閉鎖もしくは集団的永久的解雇の意図のもとになされるそれの如きは作業所閉鎖を違法ならしめるものであるが本件ではかかる違法な目的を肯定するに足る疏明はなく却つて前段認定の如き目的のもとになされた本件作業所閉鎖は正当であつて閉鎖中多少の人員を臨時雇入れて操業してもそれは自己の企業経営権の自由な活動の範囲内の行為であつてそのことにより作業所閉鎖そのものを違法なものとするものではない。
第三、そこで、次に前段認定の如き正当な作業所閉鎖中の賃金請求権の有無について判断すると、作業所閉鎖はストライキと同様の結果を使用者からの働きかけで招来せんとするもので、それは労働者の要求を圧えるため労働者に賃金を支払わないことによつて圧迫を加える反面、使用者も経営の一時的停止もしくは減縮により甚大な損失を蒙ることを覚悟して行う争議行為であつて、それが社会的に権利として認められている限りにおいて工場より閉め出された労働者に対し閉鎖期間中の賃金支払義務を負わないことは事理の当然であり、このことはまた双務契約上の信義則あるいは労使したがつて争議対等の原則からも承認せらるべき当然の帰結である。したがつて前段協定の如く、就労の申入れがあろうとまた仮令当事者間の賃金契約が月給制であろうと年俸制であろうと正当な争議行為としての作業所閉鎖中は被申請会社に労務の受領遅滞の責任なく、いわんや前段認定の如く本件作業所閉鎖は権利の行使であつて使用者の責に帰すべき休業ではないので申請人主張の如き労働基準法第百十四条にもとづく附加金支払義務はない。疏明方法のうち以上の認定に反するものはすべて当裁判所の措信し難いところである。
以上の事由により申請人の本件仮処分の申請はその他の点について判断するまでもなく理由がないからこれを却下する。
尚附言するに本件申請については昭和二十六年三月三十日附を以て申請組合代理人から取下書が提出されておるが之に対し被申請代理人から右取下に同意しない旨の陳述書が提出されているからその取下の効力について按ずるに本件に於ては既に前後七回に亘り口頭弁論を開いて審理し相手方の弁論及証拠調を尽し之に基いて判決すべき場合であつて相手方の応訴行為と同種の行為がありその取下については民事訴訟法第二百三十六条第二項の準用があると解せられるから右取下は無効というべきである。
よつて訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条に則り主文の通り判決する。
(裁判官 土田吾郎 黒川四海 住吉君彦)
(別紙省略)